リニア中央新幹線の停車駅ができる自治体のうち、最も大きなインパクトがあるのが飯田市だ。中津川市と甲府、相模原は大都市圏内にあり、交通の便も悪くないに対し、飯田-東京間は高速バスで4時間。リニアはこれを45分に短縮する。伊那谷と東京を高速バスで結んで35年になる信南交通(同市)の中島一夫社長(62)は、2027年をどう見据えるのか。単刀直入に聞いた。
-1984(昭和59)年に始まった伊那・飯田-新宿間の高速バスは信南交通の業績をV字回復させた
昭和50年代の当社は乗り合いバスが大赤字で借り入れ金も非常に多く、長野県内のバス会社で一番最初に潰れるといわれていた。
フランスに留学中だった私に父は「会社は今年で潰れる。お前はフランスでの自活を考えろ」と言ったほどの事業環境だった。
ところが高速バス新宿線が動いたら1年単独で黒字に転じた。乗り合いは赤字が続いたが、高速バスがどんどん稼ぐことによって会社が生き長らえたので「高速バスに救われた会社」として全国的に知られるようになった。まさに新宿線さまさまだった。
乗り合いバスは2000年に自社路線を行政への請け負い、業務委託にしたり、手放したことで8000万円から9000万円の赤字を2000万円に圧縮できた。
乗り合い路線を手放したことは収益の点で非常に大きかった。行政に助けていただいたので、今後はまちづくりの施策に対して交通事業者として恩返しする立場であると自覚している。
新宿線の減収はしかたない
-2027年のリニア中央新幹線が高速バス事業に与える影響は
飯田-新宿線の区間に関しては大きく利用が減ると予想している。片道4時間と45分~1時間の差異は、金額では埋められないものだと思う。
長野市-東京間も高速バスは約4時間だが、新幹線なら1時間40分。高速バスは長野電鉄さん、アルピコさん2社合わせても1日10往復くらいで、それほど乗らない。
今の飯田-新宿間はほかに代替手段がないため、95%くらいが当社のお客様だが、リニアによって一番稼ぎのいい部門で減収が起きる。これはいたしかたないことだ。
われわれが伊那・飯田-新宿線を始める前に、旧国鉄から「事業が破壊される」とクレームがついた。紆余曲折の末に国に認可されたら、国鉄の急行は1年でなくなったように、リニアによってそれと同じようなことが起きると思う。
伊那-新宿と名古屋はまだ競争力がある
ただ、伊那地区からはリニアはそれほど便利ではないので、伊那-新宿間はリニア開通後も競争力があると考えている。
というのは、飯田まで車で来てリニアに乗ると品川まで約2時間、伊那から高速バスを利用すると…