日本料理「清月」女将・書家
青山芳子
紫式部の生涯を描いた大河ドラマ「光る君へ」を毎週楽しみにしている。紫式部役の吉高由里子はもちろんのこと、柄本佑、黒木華など、目元が涼しげで典型的な日本人顔の俳優たちが平安貴族を見事に演じているのが興味深い。
そういえば、10代の頃の私はこんなことを言われていた。
「よっちゃんは、切れ長の目にしもぶくれ顔だから、平安時代なら美人だよね!」
色白ぽっちゃりの頬は母親譲りで、クールな目元は父親に似て、華やかとは無縁の地味顔だった。
それが今から20年前のある日、左目が突然ぱっちりの二重になった。少し視野が広がった感覚があった。その1年半後には右目も二重になった。それには自分を納得させる理由があり、「ヨシコの七不思議」として大切にしている実話である。まれにその話をすると鳥肌が立つが、胸がジーンと熱くなるのだ。
2004年3月30日の朝、心筋梗塞で夫が急逝した。あまりに突然のことであったが、泣いている場合ではなかった。怒涛のような時間が過ぎ、通夜式を無事に終えた私は、鏡の前の自分と向き合っていた。「明日の告別式には全国から山やスキーの仲間たちが最期のお別れに来るだろう。しっかりしなくてはダメ!わたし」。そう心でつぶやきながら左目が二重になっていることに気付いた。「疲れているせいかな。すぐに元に戻るだろう」。しかし、目の大きさがアンバランスのまま一年半が過ぎていった。
その間、亡き夫が長年スキー教師として過ごした新潟県の赤倉温泉スキー場を見下ろす妙高山に追悼登山をした。「岩城忠雄(亡き夫)のドキュメンタリー映画制作」と、彼の遺した写真と私の書で「岩城忠雄追悼展」を企画し、準備に取り掛かった。行動を起こしながら悲しみを逃していたのだと思う。
ふるさと富山の立山連峰にも追悼登山をした。出発の準備をしていた時から、まぶたに不思議な感覚があった。「立山に登ったら二重になるのでは?視野を広げて、これからもしっかり生きていきなさいというメッセージかもしれない」
果たして、山小屋に泊まった日の朝、私の両目はぱっちりと二重に見開いていた。天からのプレゼントに違いなかった。(新城市)
三遠南信Biz2024年3月号掲載
■青山芳子さんのコラム「女将ストーリー」は三遠南信Bizに毎号掲載しています。2024年4月号掲載分とそれ以降の作品は紙面でお読みください。
バックナンバー(サンプル) |
2023年7月号掲載「17歳の夏に」 |
2023年10月号掲載「麗しきコートダジュール」 |
2024年2月号掲載「レコード日和」 |
2024年3月号掲載「ヨシコの七不思議」 |