[県境越える小さなファミリービジネス]
浜松市天竜区春野町の人里離れた一軒家に住む竹職人、鈴木げんさん(43)が作る竹製のかばんが話題になっている。「一から作り、長く付き合える天然素材、無着色のバッグ」というポリシーが多くの人の共感を呼び、受け渡しまで数年待ちという人気ぶりだ。
浜松市中区に生まれ、地元で開業したデザイン工房で企業のホームページやチラシ、冊子などを手掛けていたが、仕事を通して知り合った新城市の竹職人、菅沼伸之さんと語り合ううちに、曽祖父と祖父もなりわいとした竹細工への思いが高まり、仕事を続けながら同氏に師事した。
竹細工の優れた職人が多い大分県別府市での単身修行を経て、2010年に竹職人として独立。百貨店で実演販売を始め、16年から春野町の山の上に自宅兼工房を構えた。
天然素材と自然の色に思い入れが強く、竹は工房近くに自生する節間の長い4年生の真竹を使う。
本体の編み方は、竹ひごの幅と厚みを均一に揃え、隙間なく編み込む「網代(あじろ)編み」。国産の渋柿を使って染め、持ち手と四隅には染色していない牛皮を使うため、経年変化が楽しめる。
内布は伝統の遠州木綿。同市北区に住む職人肌の母親が加工している。
販売は春野町の工房での受け渡しか、有名百貨店や呉服店での展示会のみ。通販をしないのは「バッグに触れて、工房や竹林も知ってもらい、それらも込みで使ってもらえたら」という思いからだ。
価格は7~10万円が中心で、40代~60代の女性が普段使いに買い求めるケースが多い。
工房内は、見られることを意識した工夫が随所に施され、壊れたバッグを持参すれば、ユーザーがお茶を飲む間に修理を終える。
「山の中にある古民家で暮らしたい」という思いは、母方の祖父が育った長野県下伊那郡大鹿村にある築300年の家を訪ねてから、ずっと温めてきたもので、今に始まったことではない。
素材へのこだわりは、作品に留まらない。古民家をリノベーションする際「新たに使う材も地のものでなければ」と考えたが、現代の流通システムでは、春野町産の木材は指定できないことが分かった。
これで妥協するのが普通だが、鈴木さんは仲間の協力を得て伐採の現場で目印を付けた木を指定することで、念願だった春野産材を手に入れた。
「目と手の届く範囲でのものづくり」は、14年に個展を開いたスイスのジュネーブでも高い評価を受けた。ものづくりの国で認められたことは大きな自信となったが「90歳近い新城の師匠には『まだまだだ』と言われます」と笑顔で話す。
皮はこれまで業者から仕入れてきたが、近く春野産の鹿皮が使える見込み。2020年には春野の工房で展示会を開く計画だ。
竹の鞄GEN
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