スギとヒノキの人工林が多い愛知、静岡、長野県境域でつながる三遠南信地域は「日本有数の花粉大量飛散エリア」といえる。今年の傾向、大量飛散エリアに求められる対策、新型コロナウイルス対策時期の花粉症初期療法について、飯田病院(長野県飯田市)耳鼻咽喉科・アレルギー科の堀口茂俊部長(55)に聞いた。
<激増するスギ花粉症>
―花粉症患者数は近年、どのように推移していますか?
スギ花粉症は年々増え続けています。おおよそ10年ごとに、全国の耳鼻咽喉科医とその家族を対象にした大規模疫学調査がおこなわれています。調査集団が日本人の代表たり得るかは議論の余地の有るところではありますが、アレルギー性鼻炎の診断が信用できること、全国的に大規模に一律に調査ができるとこと、などのメリットがあります。今回が3回目で、1998年、2008年、2019年に行われた調査の結果では、アレルギー性鼻炎の患者は20年前は日本人の3割であった有病率が、とうとう半数になりました。
詳しく見ていきますと、ダニ・ハウスダストなどにアレルギーを起こす通年性アレルギー性鼻炎の患者さんは穏やかな増加なのに比べ、花粉症のような季節性アレルギー患者さんの増加が多く、殊にスギ花粉症患者さんは激増していると言ってよいでしょう。日本人の4割の有病率になりました。
<通年性アレルギーよりスギ花粉症の方が有病率が高い>
ー年代ごとの傾向は?
年齢別に見てみますと、0-4歳を除けば、学童期以降すべての年齢層でスギ花粉症は通年性アレルギーより有病率が高いです。これまでの「こどもは通年性アレルギー、大人は季節性アレルギー」という常識は通じないようです。しかも各アレルギー疾患とも罹病率のピークは10代になっています。アレルギー性鼻炎は自然には治らないことを考えますと、今後、アレルギー性鼻炎を患う日本人は増えていく事が予想されます。
<長野県内のスギ・ヒノキ林には偏在があり、飯田・伊那地域が最も多い>
春期花粉症の原因となるスギ林・ヒノキ林は主に戦後の拡大造林政策による人工林ですが、山林面積には地域で大きな差があります。一番面積の大きいのは飯田・伊那地域で、ついで長野・飯山地域です。
<三遠南信は全国有数の花粉飛散大量地域>
ー人工林は愛知、静岡、長野県境域に多いと聞きますが、やはり花粉も多いですか?
花粉の飛散量というのは、地域のスギヒノキ人工林の様子に影響を受けます。最近5年間の春期花粉飛散総量をみてみますと、長野県南部は東海地域に匹敵する日本有数の花粉飛散地域といえます。長野県の根羽、売木、愛知県北部の豊根、東栄、静岡県北部の水窪、佐久間を中心とするスギ植樹が盛んな地域に一大花粉源があること、長野県の南木曾、岐阜県の福岡、山口、といったヒノキで有名な地域にも一大花粉源があることが示唆されます。飯田下伊那地域には、春の南風とともに花粉が南から谷に舞い込むと言えます。
<飯田下伊那の花粉は2回飛ぶ>
ースギとヒノキの飛散時期は?
飯田病院屋上に花粉測定器を設置して花粉飛散量を観察しますと、まずスギの飛散がやってきて、もう一度ヒノキの飛散がやってくる、という2段に別れた飛散ピークが観察されます。この結果、花粉の終息は5月ゴールデンウイーク明けまでと大変長い期間花粉に悩まされるのもこの地域の特徴です。
今年の花粉飛散は 昨年よりかなり多いが平年よりは少ない
―今年の傾向は?
昨年(2020年)の花粉は過去10年の中でも非常に少ない飛散量になりました。飛散量の少なさに加え、新型コロナ感染拡大による外出制限やマスク着用などで症状を感じた方は少なかったかもしれません。
今年(2021年)の飛散量予想ですが、2020年7月の日照量が少なかったため、例年平均より飛散は少ない事が予想されます。しかし、昨年と比べれば多く飛ぶため、はっきりと症状を感じる方は多いでしょう。もとより花粉飛散量の多い飯田下伊那の方は警戒が必要です。
<花粉症への基本対応はセルフケア・セルフメディケーション>
ーどのような対策が有効ですか?
セルフケアの基本は花粉症の原因である花粉を遠ざけることにあります。具体的には
・マスク、メガネを着用する。特にマスク内側に当てガーゼを付けると効果が高い。
・換気時にはレースのカーテン等で遮るとともに、開窓を10cm程度にとどめる。
・掃除をこまめに行い、掃除機だけでなく、濡れ雑巾やモップによる清掃を行う。
・洗濯物は屋内に干す。
・羊毛や毛織物の衣類ではなく、ポリエステルや綿製品で起毛のない衣類を着用する。
これらを習慣化してください。最近では花粉症をやわらげる効果のある食品も出てきています。国が表示を許可するアレルギー症状をやわらげる「機能性表示食品」を使うこともできます。ただし、大量に摂取しても病気が治るわけではありません。
セルフメディケーションは、自分で薬を買って治療するということです。これまで医師の処方箋が必要であった抗アレルギー薬が「スイッチOTC薬」として多数登場しています。こうして買ったお薬は医療費控除の特例が得られる制度もできて、国も積極的にセルフメディケーションを推進しています。
花粉症は「病院で治療する」時代から、「病院で処方してもらうか、薬局に買いに行くかを患者さんが主体的に選択する」時代になってきています。
<新型コロナ対策時期の花粉症対策は初期療法を>
ー新型コロナウイルス感染症と花粉症、風邪の症状にはどんな違いがありますか?
花粉症の症状は、くしゃみ、鼻水、はなつまり、のどのヒリヒリ感、頭痛、微熱、全身倦怠感、目の痒み…などですが、これらの症状は風邪症状(感冒症状)と区別がつきません。
花粉症のある人は予め薬剤を処方していただくか薬局でお求めになっていただき、僅かでも症状を感じたら以後シーズン中は服薬するという「初期療法」がお奨めです。途中で症状が軽快しても服用をやめないことが大事です。
それでも症状が強く出た場合には、まずはかかりつけ医に相談し新型コロナ対策に応じた診療してもらってください。初期療法をしないで花粉症の症状がひどくなった場合には、花粉症だと自己判断せずかかりつけ医に相談しましょう。地域の感染状況や直近の行動問診などから総合的に花粉症症状か感冒症状かを見極めていただけますし、必要に応じて新型コロナウイルスの感染の有無の検査もしていただけます。くしゃみ等の症状があるのに職場や学校に通勤通学するのはこの状況下では避けたいところです。