[県境越える小さなファミリービジネス]
三遠南信道(三遠道路)鳳来峡IC―浜松いなさ北IC間の開通効果で、浜松市方面からの観光客が増えている愛知県東栄町に昨年11月、日米の夫婦が経営する「古民家ダイナー月猿虎」(つきえんこ)が開店し、県外客と地元客でにぎわう人気スポットになっている。
ともにバンドマンだった名古屋市出身の夫、河原(かわはら)和明さん(44)とミネソタ出身の妻タナさん(50)は、奥三河で日帰り山歩きを重ねる中で、伝統を色濃く残す東栄町の花祭りに感銘を受け、名古屋からの移住を決意。築約100年の古民家を店舗兼住宅に選んだ。
リノベーションした店内は和と洋のしゃれた雰囲気が調和し、ハードロック風デザインのオリジナルTシャツやバッグも独特の雰囲気を醸し出している。店名は2人の干支と集落名の「月」からとった。
提供する料理は、東栄町産のブランド肉「錦爽鶏(きんそうどり)」で作る手羽先などの和食と、自家製チリソースを使ったテキサス・メキシコ風料理(テックス・メックス)が2本柱で、和食は両親が経営する名古屋の居酒屋チェーンで腕を磨いた和明さん、テックス・メックスは米国のスーパーで惣菜部門を担当していたタナさんが調理する。
新聞やテレビ、雑誌で取り上げられた影響で、昼は豊橋や豊川、浜松、豊根など県内外から訪れる30~60代の女性客でにぎわう。居酒屋営業の夜は地元客が中心。近くの住民からは「明治以来、初めて店ができた」「歩いて飲みに行ける」と喜ばれているという。
県外客には鮎料理や猪肉のメンチカツ、鹿肉ハンバーグなど、地元素材を使ったローカルなメニュー、地元客には新鮮な魚介類、静岡県伊豆市から取り寄せる月替わりのクラフトビールなど、東栄町では入手しにくいものが人気だ。
タナさん手作りのスイーツも好評で、地元の若者には手作りココアが好まれている。BGMは客層に応じてルーツロック、ジャズ、R&Bと流し分け、月1回のライブも恒例化した。
「ジャガイモを育ててやっとりゃ死なせんわ」と腹をくくって起業したが、開店1年目の営業は順調で、ほぼ事業計画通りだ。
名古屋で出店すれば3、4倍の初期費用が必要な上、ランニングコストも高額だが、ここでは家賃がいらないことが何より大きい。決め事の多いチェーン店ではできなかった自由な展開も楽しそうだ。
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東栄町は本年度中に三遠南信道の東栄IC―佐久間IC間、数年後には鳳来峡IC―東栄IC間が開通して、都市部へのアクセスが飛躍的に向上する。町はこの好機に移住定住施策に弾みを付けようと、積極的な受け入れ策を展開している。
和明さんは「東栄町の皆さんはおおらかで閉鎖的でなく、最初から歓迎してくれた」、タナさんは「ここの空気と景色、地元の人、全部大好き。一時帰国すると『早く山に戻りたい』と思うし、名古屋も疲れるから戻りたくない」と話す。
古民家ダイナー月猿虎
〒449-0212
愛知県北設楽郡東栄町大字月字布川田11―4
電話:0536(76)0303
営業日:木・金・土・日