[TOP INTERVIEW 地域を拓く]
トヨタ自動車や帝人など、日本を代表するグローバルカンパニーのトップも共鳴する「年輪経営」で知られる伊那食品工業(本社・長野県伊那市)の塚越寛取締役会長(81、当時)は、リニア中央新幹線より三遠南信自動車道に期待している。その理由とは―。三遠南信時代に備えた事業展開も交えて聞いた。
キーワードは「快適さ」
―三遠南信自動車道のどんな点に期待しているか
話の前提としてお伝えしたいのは、これからのキーワードは「快適さ」であるということ。人類の進歩は快適さを追究しているといっても過言ではない。
これはなかなか理解してもらえないことだが、生産性や効率は今の時代の価値観であり、これからはかなり変わってくる。
移動の時間も人生の一部であり、早ければいいというわけではないと私は考える。若い人はより楽しい方を好む。
一方で自動車の運転は楽しいし、私も好きだ。自分の意思で動かすことが楽しい。期待されている自動運転にも限界があり、運転は今後ふた手に分かれるだろう。楽しむための移動、トヨタのいう「FUN TO DRIVE」は続く。
―三遠南信道は
実に険しい山の中を通り、ある意味で楽しいのでは。車窓から見える景色もいいのではないか。トンネルを抜けるとパッと景色が広がり、運転すれば楽しいだろう。
それから、言葉は交流の度合いを表していて、交流のあった地域は同じことばを使う。だから「~ずら」などの伊那谷の言葉は静岡県と似ているでしょう。昔は歩いて移動して交流していたから、同じ言葉を使うのはその証拠といえる。
そのようにかつてつながり、ふたたびつながりたいという昔からの願望があった地域間で、交流をはばんでいた険しい山が開き、ようやく三遠南信道でつながろうとしているのはすごいこと。歩いていた時代と同じようになる。だから私は期待するのだ。
標高差のあるミカンの産地とリンゴの里を快適に移動できるようになる。違った土地に手軽に行けるようになるというのもすごいことで、いろいろな変化が予想できる。そこにも期待している。
交流が経済の成長を促進
―経済面では
快適な自動車運転で近くなると、交流が始まる。交流イコール経済活動と言っても過言ではなく、交流が経済の成長をうながす。
昔は中国と近い長崎や琉球など船の便のいいところが栄えた。要するに交流だ。ここでは人間が動くだけでも経済になる。実際にモノも動くんじゃないか。
空気が湿った海岸沿いの精密産業が長野県に求めるものはあるんじゃないかな。あちらの工業出荷高は非常に多い。飯田の側からしたら(県庁所在地の)長野市に行くより近くなってしまうわけだ。
これはどういうことになると思うか。どうしたって何か変化が起きる。だから私は期待するのだ。
今はちょっと遠いが、東三河・遠州の人たちにもこちらに来たいという思いはあるはずだし、早く来られるようになれば上伊那まで来ても悠に日帰りしやすくなるんじゃないか。
泊まった方がいいけれど、交流ができればなんとなく経済は良くなるのでは。
南北の移動は東西より有益
縦(南北)に移動するのは、横(東西)の移動よりいいことがある。横の移動は防災面ではあまり効果がない。
静岡県は特にその側面が強く、津波・南海トラフ対策の面でも縦につなげることが大事。以前、浜松の鈴木康友市長から、津波に備えて工業団地を山手に造ったと聞いた。土地は安くないようだから、工場の一部を土地代の安いこちらに移しても差額が出てしまうんじゃないか。